長距離を走っていると、ある一定の距離やタイミングで「足に力が入らない」「足が棒になる」「カクンと抜ける」といった症状に悩まされていませんか?
それは単なる筋力不足やスランプではなく、「ぬけぬけ病(局所性ジストニア)」かもしれません。
本記事では、300名以上のぬけぬけ病ランナーの改善をサポートしてきた専門理学療法士・西山が解説していきます。
ぬけぬけ病の正体、なぜ普通の筋トレでは改善しないのか、そして具体的な改善への道筋を徹底解説します。
1. ぬけぬけ病(局所性ジストニア)の正体
多くのランナーが、最初は「なんとなく足に違和感がある」という段階から始まり、次第に力が抜ける、足が勝手に棒のように突っ張るといった症状へ移行します。
実は「脳と神経」のトラブル
ぬけぬけ病は、医学的には「局所性ジストニア」と呼ばれます。これは筋肉そのものの病気ではなく、脳からの指令が筋肉に正しく伝わっていない状態です。
- ブレーキがかかったまま走っている状態:例えば膝を曲げようとした時、本来は「曲げる筋肉」が働き、「伸ばす筋肉」は緩む必要があります。しかし、ぬけぬけ病のランナーは、伸ばす筋肉(ブレーキ)が緩まず、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるような「過剰な力み」が生じています。
- 感覚のズレ:本人は「力が入らない」と感じていますが、実際には無意識に「力が入りすぎている(固まっている)」ことが多いのです。
なぜ「3000m」などで症状が出るのか?
よく「3000m付近で症状が出る」と言われますが、距離そのものが原因ではありません。多くのランナーへのアンケートによると、「あと少しでゴールだ」「ここから頑張ろう」と気合を入れてギアを変えようとした瞬間に、脳が過剰に反応して身体が固まってしまうことが原因と考えています。
2. 症状を引き起こす「意外な原因」
過去の怪我と「無理な練習」
過去に実施したアンケート結果によると、症状が出る足は、直前に怪我をしたケースが非常に多いことが判明しています。 特に重要なのは、怪我をした際に「痛みを我慢して走り続けた」あるいは「完治する前に復帰した」「痛みがおさまったからと動きを修正せずに走り始めた」ランナーが圧倒的に多いという点です。痛みをかばう変な動きが脳にプログラムされてしまい、怪我が治った後もその「誤った動き」が残ってしまうのです。
「センスがある」からこそなる?
実は、ぬけぬけ病になるランナーは運動センスがある人が多いです。自分の体のわずかな「感覚のズレ」を敏感に感じ取ってしまうがゆえに、脳が過剰に修正しようとして混乱(エラー)を起こしてしまうのです。
3. やってはいけないこと・やるべきこと
× 間違い:高負荷の筋トレで筋肉を太くする
「力が入らないなら筋トレだ!」と、重いバーベルを持ってスクワットをしていませんか? ぬけぬけ病の改善に必要なのは、筋肉を太くすること(筋肥大)ではなく、「神経筋再教育(しんけいきんさいきょういく)」です。 高負荷のトレーニングは、使いやすい(代償している)大きな筋肉ばかりを鍛えてしまい、本来鍛えたいサボっている筋肉(インナーマッスル等)に刺激が入りません。
○ 正解:低負荷・高回数の地味なトレーニング
長距離ランナーに必要なのは、同じ動きを何千回も繰り返す能力です。そのため、改善トレーニングは「低負荷・高回数(100回程度)」で行い、脳に正しい動きを反復学習させる必要があります。
4. 改善へのロードマップ(山登りの法則)
改善は一足飛びにはいきません。以下のステップを「山登り」のように進んでいく必要があります。
- 基礎知識をつける:まずは自分の体の状態や、なぜこのリトレーニングが必要かを理解する。
- 感覚と動きのズレを修正する:
- 頭の中のイメージ(感覚)と、実際の体の動きには大きなズレがあります(例:自分では真っ直ぐ足を出しているつもりでも、実際は斜めに出ているなど)。
- 動画を撮る:自分の動きを動画で撮影し、主観(感覚)と客観(実際の動き)の差を埋める作業が不可欠です。
- 基礎筋力の再構築:正しいフォームで、狙った筋肉(特に臀筋や腸腰筋など)単独に刺激を入れる地味なリトレーニングを継続します。
- 徐々に走りに繋げる:基礎ができてから、3000m、5000mと距離を伸ばし、最後にスピード練習へと移行します。
5. 症状が出た時の対処法
もし走っている最中に違和感や症状が出たら、潔くストップしてください。 「あと少しだから」と無理をして走り続けると、悪い動きがさらに脳に定着し、怪我のリスクも高まります。違和感が出る前にやめる、あるいは違和感が出た瞬間に練習を切り上げることが、結果的に最短の改善ルートになります。
まとめ:あきらめないで!
ぬけぬけ病は「治らない難病」ではありません。 原因は「脳の勘違い」と「筋力・感覚のアンバランス」にあります。自己流のトレーニングや根性論で克服しようとせず、正しい知識と手順(神経筋再教育)を踏めば、必ずまた楽しく走れる日が来ます。
まずは、「動画で自分の動きを確認すること」と「痛みを我慢して走らないこと」から始めてみましょう。
本記事は「ぬけぬけ病チャンネル〜focal dystonia channel〜」の動画内容に基づき構成されています。


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